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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)4544号 判決 1997年7月25日

原告 医療法人

右代表者理事長

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

中藤幸太郎

安野仁孝

今中道信

被告

乙山春男

右訴訟代理人弁護士

浦功 池田直樹 位田浩 板垣善雄 井上英昭

上野勝 上原康夫 氏家都子 内海和男 江野尻正明

大川一夫 大槻和夫 大野康平 岡本栄市 奥村秀二

小田幸児 片見冨士夫 金井塚康弘 金子利夫 加納雄二

冠木克彦 菊池逸雄 岸上英二 北本修二 木村雅史

甲田通昭 後藤貞人 小林邦子 在間秀和 桜井健雄

重村達郎 千本忠一 空野佳弘 高階叙男 竹下政行

武村二三夫 津田尚廣 中島光孝 永嶋靖久 仲田隆明

中村真喜子 丹羽雅雄 福原哲晃 松本剛 松本健男

松本康之 丸山哲男 宮島繁成 山上益朗 幸長裕美

養父知美 吉岡一彦 小山田貫爾 新井邦弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成六年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、精神科、神経科を診療科目とするA病院<住所略>及び内科、小児科を診療科目とするB病院<住所略>を開設して運営する医療法人である。

(二) 被告は、大阪弁護士会所属の弁護士であり、私設の任意団体である「Cセンター」の代表者である。

2  本件各文書の送付

被告は、「Cセンター代表乙山春男」名義で、平成五年五月一七日ころ、D大学医学部耳鼻科医局長及び同学部皮膚科医局長宛に別紙(一)の「質問状」と題する文書(以下「本件文書(一)」という。)を、同年七月一六日ころ、同学部事務局長宛に別紙(二)の「申し入れ書」と題する書面(以下「本件文書(二)」という。)を、同年七月ころ、同学部長及びE大学医学部付属病院教授F宛に本件文書(二)と同内容の文書を、同年九月九日ころ、A病院に永年日勤医師として勤務している医師G及び開業医であるH宛に別紙(三)の「質問状」と題する書面(以下「本件文書(三)」という。)をそれぞれ送付した。

3  本件各文書には、別紙(一)ないし(三)各記載のとおり、原告が経営するA病院内での暴力事件の横行や患者の使役、処遇、治療が不当である事実、すなわち、

(一) 平成五年二月の夜間、入院患者に対する暴行事件が発生したこと(本件文書(一)ないし(三))、

(二) 作業療法と称し、入院患者を安価な労働力として使役していること(本件文書(三))、

(三) 生活保護を打ち切り、突然入院患者を強制退院させたこと(本件文書(三))、

(四) 患者の依頼を受けた弁護士が、書面提示の上、患者の代理人となろうとする弁護士として、患者との面会を要求しても、A病院がこれを拒否し(本件文書(一)ないし(三))、かえって弁護士との面会を拒絶する旨の誓約書の作成を患者に強要したり(本件文書(三))、面会時間を一〇分ないし一五分に制限したりしたこと(本件文書(三))、

(五) 入院患者がA病院に依頼した郵便物が相手先に届いていないこと(本件文書(一)、(二))、

(六) A病院には、定床五二四名に対し、常勤の精神科医は一名しかおらず、常勤医にも臨床に即した向精神薬調整の権限が与えられていないこと(本件文書(一)、(二))

等が記載されているほか、A病院の対応は、精神保健法の精神を踏みにじるもので、改善の意思もなく、病院職員の良心的医療すら認められない(本件文書(一)、(二))、到底医療機関とは思えない実態である(本件文書(三))等と記載されている。

4  名誉・信用の毀損及び業務妨害

(一) 本件各文書は、読み手に対し、原告が経営するA病院が、患者に対する処遇・人事管理等の劣悪な悪徳病院であるかのような印象を与えるものであり、被告が送付した右各文書により、原告の名誉は著しく毀損され、社会的信用が失墜した。

(二) また本件各文書中のA病院内での暴力事件の横行や患者の使役、処遇、治療の不当性に関する記載及び本件各文書の送付先である各医局長ないし医師等に対し、A病院に大学医学部所属の研修医を派遣することあるいはA病院に勤務していることについての考えを求める旨の記載は、A病院が人権侵害の行われている劣悪な病院であるから、右研修医らを派遣すべきではなく、また勤務をすべきではないとするものであり、原告の業務を妨害するものである。

5  原告は、被告の右名誉毀損行為により、原告の社会的評価と信用の低下という損害を被り、また右業務妨害行為により、本件各文書の送付先である医局長等が、研修医に対しA病院でアルバイト勤務をしないように指示し、現に研修医としてアルバイト勤務をしていた者等が勤務を辞めるに至っているのであって、これら無形の損害を金銭に評価すると五〇〇万円を下らない。

6  よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年六月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4及び5は争う。

三  抗弁

1(一)  事実の公共性

(1) A病院は、不特定多数の精神障害者が入院・通院している精神病院であり、それらの患者の中には、法的な手続等によりその意に反して入院させられている者も多数存在している。

また、A病院は、定床五二四と規模が大きく、入院患者の住所は大阪府のみならず近畿一円に広がっているのであり、このようなことからして、A病院の社会との関与の範囲、程度は多大なものである。

(2) さらに、平成五年二月にA病院内で発生した入院患者暴行事件は、警察によって傷害致死事件として立件され捜査活動が展開されており、また新聞・テレビ等でも広く報道されたのであり、このことからしても、右事件の内容やその背景などA病院に関連する事項が広く社会一般の関心事となっていることは明らかである。

(3) 以上からすれば、本件各文書記載の事実が公共の利害に関する事項であることは明らかである。

(二)  公共の目的

被告が本件各文書を送付した目的は、A病院において医療に携わっている医師あるいはその医師を派遣している大学医局等医療関係者に対し、Cセンターの調査等により明らかになったA病院の問題ある医療実態等を指摘して、医療に携わるものとしてこれらをどのように受けとめるのかにつき注意を換起し、もって右医療関係者に対し、精神医療の実態の改善、改革を働きかけることにあるのであり、専ら公益を図るためであるといえる。

(三)  事実の真実性ないし真実であると信じたことの相当性

被告が本件各文書に記載した事実は、いずれも真実である。

また、仮に右各文書の内容が真実でないとしても、本件各文書は、いずれもCセンターがA病院に現在入院中あるいは従前入院していた患者及び同病院の元職員らから聴取した事実等をもとに作成されたものであり、いずれも真実であると信じるにつき相当な理由があった。

(四)  このように被告が医療関係者に対し送付した本件各文書は、公共の利害に関する事実であり、かつ公益目的をもって、真実ないし真実と信じるにつき相当な理由の存する事実を記載したものであり、右各文書の送付行為は違法性を有しないものである。

2  Cセンターは、精神医療の問題点を追及し、精神障害者の人権侵害に対する救済活動を展開することを目的として設立された団体であるところ、1(二)で述べたとおり、被告は、Cセンターの活動の一環として、同センターの調査等により明らかになったA病院の問題ある医療実態等を指摘し、もって医療関係者に対し、精神医療の実態の改善や改革を行うよう働きかけることを目的として、本件各文書を医療関係者等に送付したものであるから、被告の右行為は正当な業務行為であるといえる。

4 抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)(1)(2)の各事実は認める。

2  同1(二)ないし(四)及び同2の各事実は否認する。

第三  証拠

証拠関係は、本件記載中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

そして、大学医学部あるいは医師等医療関係者に送付された本件各文書は、A病院内で暴力が横行していること、入院患者が安価な労働力として使役されていること、右病院では面会を制限したり郵便物の制限をしたりしていること、右病院は常勤医の数が少ないこと等を具体的に指摘するものであって、右は、全体として、これを閲読する者に、原告の経営するA病院が、患者に対する処遇、医療内容等において極めて問題のある病院であるとの印象を与えるものであり、原告の信用・社会的評価を低下させる類のものと評価することができる。

また、右のような内容の文書が医療関係者に送付されれば、送付を受けた右医療関係者が、A病院に医師を派遣したり、あるいは同病院に勤務することを差し控える等の事態が生じ、原告の医療機関としての業務が阻害されることも当然予測され、被告自身もこれを否定はしない。

しかし、そうであるとしても、名誉毀損の点については、本件各文書の送付が、公共の利害に関するものであり、専ら公益を図る目的でなされ、右各文書の内容が、主要な点において真実であるか、もしくは真実と信じたことに相当な理由があるときは、その違法性は阻却されるものと考えられるし、また業務妨害の点についても、本件各文書の送付の目的等に照らして、被告の正当な業務とみられるときは、その違法性が阻却されるものと考えられる。

二  そこで右違法性阻却事由の有無(抗弁)について検討する。

1  抗弁1(一)(1)(2)の事実は当事者間に争いがなく、右事実及び成立に争いのない乙三ないし六号証、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙四九号証、被告本人尋問の結果によれば、被告が本件各文書を作成し、これらを医療関係者に送付するに至った経緯について、次の事実を認めることができる。

(一)  昭和五九年三月、栃木県内の精神病院において、同病院の患者が看護者から暴行を受け死亡するに至ったことが判明し、これを契機として、弁護士である被告は、精神医療の改革及び精神障害者の人権擁護を目的として、昭和六〇年一一月に、医師、看護婦、ケースワーカーなどの医療従事者、精神障害者及びその家族、弁護士等からなる任意団体であるCセンターを設立した。

以来被告は、右Cセンターの代表として、同センターに寄せられた精神病院の患者及びその家族からの訴えに対し、同人らと面会し、人権侵害の実態につき調査した上、問題があると思われる病院には、患者の処遇等につき改善を申し入れる等の活動を行う一方で、新聞等で患者の処遇に問題がある旨報道された病院を調査し追及したり、精神医療行政の改革を求めて行政機関との交渉を行ったり、パンフレットや集会を利用しての啓蒙活動等に努めたりしてきた。

(二)  被告は、平成五年二月二二日付けの、A病院において入院中の患者(訴外亡G)が暴行を受け、その後転院先の病院で死亡した(以下「本件暴行事件」という。)旨の新聞報道に接し、人権センターの活動に携わってきた弁護士等とともに、同患者の遺族を原告として損害賠償請求訴訟を提起するに至った。

また、Cセンターは、本件暴行事件の問題点につき、広く市民にアピールするとともに、所管行政機関あるいは、精神医療従事者、大学医療関係者等へ問題提起を行うこととし、被告を代表とするCセンターの右活動は、マスメディアにも取り上げられて反響を呼び、同センターに対し、A病院に入院中ないし入院したことのある患者、同病院及び原告の経営するB病院あるいは関連病院であるK病院に勤務する職員等から右病院の実態について多くの情報が寄せられるようになった。

(三)  そこで、被告は、A病院等に研修医を派遣したり、あるいは勤務したりして、同病院等の維持運営に関与している医療関係者に対し、A病院の実態を認識、把握してもらうとともに、その運営の是正、改善を図るよう促すため、前記のA病院の入院患者、職員等から寄せられた情報やCセンターの独自の調査等により判明した事実をもとに本件各文書を作成し、これを右医療関係者に送付するに至った。

2  事実の公共性及び公共の目的

本件各文書に記載されているのは、いずれもA病院における患者の処遇、医療実態等に関する事実である。

一般に病院は、国民の健康保持につき重要な役割を担う公共性、公益性の高い施設であり、病院内における患者の処遇、医療実態等がいかなるものであるかにかかる事項もまた、公共性の高いものであるということができる。

しかも、前記認定のとおり、A病院については、平成五年二月二二日、本件暴行事件に関する記事が新聞に掲載され、また、右事件に関し、警察による捜査が開始されたことから(前掲乙三ないし六号証)、本件各文書送付時には、特にA病院の精神医療の実態には社会一般からも重大な関心が寄せられていたのであって、いずれにしても、本件各文書が摘示した事実は公共の利益に関するものであるということができる。

そして、前記認定のとおり、被告は、精神医療の改革を図るというCセンターの活動の一環として、A病院における精神医療の是正、改善を目的として、医療関係者に対し、調査等により明らかになったA病院の医療の実態を指摘し、その是正、改善を求めるために本件各文書を送付したのであるから、被告の行為は、専ら公益を図る目的でなされたものというべきである。

3  事実の真実性ないし真実であると信じたことの相当性

本件各文書中には、被告の意見、評価を記したものに過ぎず、具体的な事実の摘示とはいえない部分もあるものの、主として、前記のとおり①A病院内での本件暴行事件の発生、暴力の横行、②同病院内での患者の使役、③面会、通信の不当な制限、④同病院内における医療体制の不備に関する事実が記載されていると思われるので、以下本件で名誉毀損として問題とされている本件各文書中の記載のうち、右の主要な事実の真実性について検討する。

(一)  A病院における本件暴行事件の発生、暴力の横行

前掲証拠のほか、成立に争いのない甲五号証の一、二、二三号証(書込部分は除く。)、被告本人尋問の結果によりA病院から転院した際である平成五年二月一五日のGの身体の状況を撮影したものと認められる検乙一ないし六号証、原本の存在及び成立に争いのない甲四号証、八号証によれば、平成五年二月に、GとA病院に入院中の他の患者とがトラブルを起こし、Gが暴行を受けた事実を認めることができる。

原告は、その際のGの傷害の程度、Gの傷害に対する治療の要否、あるいは、A病院におけるGに対する治療、保護の適否について全面的に争うのであるが(成立に争いのない乙四四号証)、いずれにしてもGの傷害がA病院内での他者からの暴行によるものであることは、右証拠により明らかなのであって、本件暴行事件の発生については真実と認められる。

ただ、さらにA病院内で「暴力が横行」しているとまでいえるかどうかについては、疑問がないわけではない。 しかしながら、前記認定のとおり、平成五年二月には、本件暴行事件が現に発生しているのであるし、前掲甲二三号証(書込部分は除く。)、乙四九号証、成立に争いのない乙一号証、二号証、三三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙三二号証、三四号証によれば、A病院においては、昭和四四年(当時の名称K病院)、昭和五四年ころにも暴行による死亡事件が発生し、昭和四四年当時から病院内において私的制裁が行われている旨の指摘がなされていたこと、Cセンターには、同病院に入院中の患者等から、病院内での暴力事件に関する具体的な訴えが多数寄せられていたことが認められ、これらの事実に照らすと、少なくとも、被告が、A病院内で入院患者に対する暴力が横行しているという事実を真実であると信じたことには相当の理由があるというべきである。

(二)  A病院における入院患者の使役

本件各文書は、A病院において、入院患者を不当に使役している旨指摘するところである。

成立に争いのない乙三一号証の三ないし五によれば、A病院に対する立入り調査結果に基づく厚生省保健医療局精神保健課長からの通知により、平成五年九月二九日付けで大阪府環境保健部長からA病院に対し、患者に作業療法を実施するに当たっては、これが入院患者の使役とならないよう、十分な医学的判断のもとに行うようにとの指導がなされ、これを受けて平成五年一二月二日付けで、同病院は同部長宛に改善計画書を提出していることが認められるのであるし、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙三六号証によれば、平成三年ころからA病院に入院していたある患者の場合、同病院において、作業療法として、食事の配膳等の仕事を一日約八時間行うこととされ、右作業時間のうち、午前六時四五分から午前八時三〇分までについては、患者の指導等にあたる職員は不在であったことと、しかも右作業の報酬としては、月に三〇〇〇円程度の菓子が支給されるだけであったことも認められるのである。

この点、A病院の事務長である証人Lは、入院患者にやかんを並べる等の作業をさせることがあり、右作業に応じて、Lの判断で三〇〇〇円程度の菓子を支給することはあるが、これはあくまで生活指導の一環であって、作業療法をしているわけではなく、また作業も右程度であり、配膳まではさせていない旨証言するが、右は前記A病院が大阪府環境保健部長宛に提出した改善計画書の内容(医師が適切と判断した場合は作業療法を実施しているが、厨房作業の場合、食器洗い、配膳のみで、患者のみの作業はさせていないとする。)とも異なるものであるし、そもそもLにおいて作業療法と生活指導とをどのように区別しているのかも、また右生活指導がいかなる医学的判断で行われているのかも明らかではない。

以上のようなA病院における入院患者の作業の実態、そして右作業に対する対価がLの指示判断で支給される月三〇〇〇円程度の菓子に過ぎないことに照らせば、これを正当な作業療法ないしは生活指導と評価することは困難であり、安価な労働力として、入院患者に作業をさせていたものといわざるを得ない。

従って、本件文書(三)における入院患者の使役に関する記載は、真実であると認められる。

(三)  面会、通信の制限

(1) 弁護士との面会の拒否について

成立に争いのない乙八号証、一六号証の一、二、一七号証の二、一八号証の一ないし四、一九ないし二二号証、二三号証の一、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙三八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙三九号証、四〇号証、被告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

ア 平成五年四月二〇日午前一〇時ころ、被告は、A病院に赴き、同病院に入院中の患者である訴外M外三名との面会を申し入れたところ、同病院の事務長であるLは、被告に対し、午前中は面会時間外である、保護義務者の承諾を得ていない、被告が弁護士であるという証明がない等と申し述べ、被告の面会申入れを拒否した。

被告は、事前にMと午前中に面会する旨約束していたことから、面会時間外であることを理由に病院が面会を認めてくれなかったこと、午後一時に再度面会に来ることを記載したメモを作成して、これを同病院の職員を通じてMに交付し、Mからは、右の点について了解の返答を得た。

そこで、被告は、同日午後一時ころ、再び同病院を訪れ、M外三名との面会を申し入れたが、Lは、Mとの面会について「恐れ入りますが、退院の件は院長先生にお任せします。弁護士の先生は結構です。すいませんが帰って下さい M」と書かれたメモを示してこれを拒否し、これに対し被告が、右メモがM本人の真意に基づき作成されたものか否かを確かめるために、同人と面会したい旨申し入れたが、Lは右申入れも拒否した。

また、Lは、M以外の三名との面会については、被告が、面会申込簿の患者氏名欄にその姓だけを記載したので、患者を特定することができないとして、実際に当該姓の患者が複数名入院しているか否かなど一切調査確認することもなく、やはり面会を拒否した。

イ 平成五年五月八日、訴外N弁護士外二名の弁護士(以下「N弁護士ら」という。)は、A病院に入院中の患者らの要請により、同人らと面会するため、同病院を訪れた。

N弁護士らは、昭和六三年四月厚生省告示第一二八号第三号に規定する「患者の代理人となろうとする弁護士」が患者との面会を求める場合に必要とされる書面(昭和六三年五月一三日付厚生省保健医療局精神保健課長通知・健医精発第一六号、以下「本件通知」という。)を、A病院に提示の上、訴外O、訴外P外三名の入院患者(以下「Oら」という。)との面会を申し入れたところ、そのころ同病院の院長であった訴外Qは、保護者の承諾のない面会は認められないと述べて、同弁護士らの面会申入れを拒否した。

これに対し、N弁護士らは、精神保健法、厚生省告示の規定上患者との面会は自由であること等を述べ、再度Oらとの面会を認めるよう申し入れたところ、同病院の医師訴外Rは、Oらに対し、それぞれ「今後の入院、退院については病院側の指示に従います。弁護士等依頼は一切致しません。」という内容のメモを書かせ、右メモをN弁護士らに示した上、同人らの面会申入れを拒否した。

そこで、N弁護士らは、Oの家族から改めて代理人の委任状をもらい、これを提示してOとの面会を申し入れたところ、Rは右Oとの面会だけは認めた。

ウ 平成五年八月一二日、訴外S弁護士及びT弁護士(以下「S弁護士ら」という。)が、本件通知所定の面会申込書を提示の上、A病院に入院中の患者四名との面会を申し入れたところ、Lは、うち三名の患者について、退院の約束等と引き換えに右患者らから徴した、弁護士との面会を希望しない旨の書面を示して、右患者らとの面会を拒否し、さらにS弁護士らが右書面が患者の真意に基づき作成されたものであるか否かを確認するため面会させるよう申し入れたが、Lは右申入れも拒否した。

なお、原告は、A病院が面会を拒否しているのは、患者本人が面会を希望しないからであると主張する。

確かに、M、Oらについては、弁護士との面会を希望しない旨のメモが作成され、またPも平成五年五月八日は、同人の母と病院に退院のことを任せることにして弁護士とは会わないこととした旨陳述(甲一八号証)し、A病院の看護婦であった訴外Uも、同日面会希望のあった患者は、弁護士に会いたくないということで、その旨の書面を書いていたと証言する(乙三〇号証の一)。

しかし、午前中、弁護士との面会を希望していたMが、同日の午後に突如として面会を拒絶する態度を示すに至った経緯については疑問なしとはいえない上に、N弁護士と面会したOは、同人の面会拒否のメモにつき、Rに指示され、自分の意に反してやむを得ず書いたもので、他の患者も同じようにRに呼び出されて、意思に反して書かされたものであるとしており、右各メモ書の記載が患者の真意であるかどうかもまた疑問である。

それはともかく、仮に患者が真に面会を希望していなかったとしても、Lは患者の意思にかかわらず面会時間や保護義務者の承諾の有無を理由としたり、あるいは自ら確認をすることもなく患者の氏名が特定されていないなどの理由で面会を拒否したのであって、これが精神保健法や厚生省告示第一二八号の趣旨に悖るものであることは明らかというべきであり、A病院が、弁護士による正当な面会要求を拒否した事実は真実であるといえる。

(2) 面会時間の制限について

被告本人尋問の結果により平成五年五、六月ころにA病院の一階ロビー事務所前ないし同病院玄関門扉の貼紙、掲示板を撮影したものと認められる検乙七ないし一〇号証、被告本人尋問の結果によれば、A病院においては、本件各文書送付当時、面会時間を平日の午後一時三〇分から三時まで、あるいは正午から午後四時までとし、面会時間は一〇分から一五分程度で済ませるよう、また家族、役所、弁護士以外の者の面会は、保護者又は扶養者の承諾書を持参しない限り認めない等として、患者との面会を制限していた事実が認められる。

そうすると、面会時間の制限に関する本件文書(三)の記載は真実であるといえる。

(3) 郵便物について

右の点に関する本件文書(一)、(二)の各記載は、病院側が入院患者から外部者への郵便物の発送を制限したという事実をいうものと解される。

そしてこの点に関し、前掲甲二三号証(書込部分を除く。)、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙三七号証によれば、少なくとも、二名の入院患者がCセンターに宛てて出した手紙が同センターに届いていないことが認められること、成立に争いのない乙三一号証の二によれば、平成五年七月二日に行われた、大阪府環境保健部健康増進課によるA病院立入検査の際になされた患者面接において、三名の入院患者が信書の制限があると回答していることが認められるところである。

右事実だけから、A病院が恒常的に入院患者の外部者への郵便物の発送を制限していると断ずることについては疑問がないわけではないが、右事実に照らせば、少なくとも被告が郵便物の発送が制限されていると信じるについては、相当な理由があったというべきである。

(四)  A病院における医療内容

請求原因3(六)記載の事実について、原本の存在及び成立に争いのない乙二八号証の一、二、被告本人尋問の結果によれば、Cセンターは、平成五年五月ころ、当時A病院の看護婦であった訴外Vから、同病院の退職に関する相談を受けており、その際同人から、同病院の医師の総数は七、八人くらいで、毎日出勤していたのは訴外W医師だけであったこと、Vが同病院勤務中に、右W医師に対し、薬が強すぎて患者がよだれを垂らしたり、よたよたになったりするので減薬した処方を書いて欲しい旨依頼したところ、同医師より、そんなことをすると院長に怒られるのでできないと言われたこと等を聞いていることが、前掲乙三六号証及び被告本人尋問の結果によれば、同月八日に、Cセンターが、A病院に入院中の患者から受け取った手紙に、同患者が薬の件で不満を述べると、看護婦から薬の処方はオーナーの指示によるもので変えることはできないといわれた旨記載されていたことが、前掲乙三一号証の二によれば、平成五年七月二日、大阪府環境保健部健康増進課により、A病院の立入検査が行われ、その際、同年六月の医療保護入院患者一〇名については、全て右W医師の診察によるものであることが判明していることがそれぞれ認められるところである。

これらの事実に照らすと、A病院には常勤の精神科医が一名しかいないこと及び常勤医に臨床に即した向精神薬調整の権限が与えられていないという事実を直ちに真実であると断ずることはできないとしても、少なくとも被告がそのように信じたことには相当の理由があるというべきである。

4 以上のように、本件各文書は、公共の利益に関する事項につき、専ら公益を図る目的で作成されたものであり、しかも右文書の記載内容は、生活保護の打ち切りの事実等、一部には明確な根拠の存しない部分がないわけではないが、その主要な事実につき、概ね真実であるかあるいは真実であると信ずるにつき相当な理由があったものといえるのであるから、全体としては、被告が本件各文書を送付してなした名誉毀損行為の違法性は阻却されるというべきである。

5 また、前記認定のとおり、被告は、Cセンターの代表として、精神医療の改革及び精神障害者の人権擁護等を目的とする活動を行ってきており、被告の本件各文書の送付行為も、右活動の一環としてなされたものであることや、本件各文書の内容等に照らすと、右は正当業務行為として業務妨害の違法性をも阻却するというべきである。

三  結語

以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官竹中邦夫 裁判官森冨義明 裁判官村主幸子)

別紙(一) 質問状

一九九三年五月一七日

Cセンター

代表 乙山春男

日頃医療の実践、教育、研究にお心砕きのことと存じます。私たちは精神医療における人権の問題について相談活動をおこなっているものです。

さてこの間私どもは医療法人 甲A病院に入院中の患者さんから多数のご相談を受けております。その大部分が院内における暴力の横行や使役、処遇の不当性を訴えるものです。

実際私どもが患者さんの依頼をうけ、書面提示のうえおこなった「患者の代理人となろうとする弁護士」による正当な面会要求についても、A病院はこれを拒否しました。その違法性は先般の国会質問でも明らかにされた通りです。また入院患者さんが病院に依頼した郵便物が相手先に届いていないという訴えも度々耳にします。こうしたこともふまえ私たちはA病院の入院患者さんに深刻な人権侵害状況が生じていると考えています。

大阪府衛生部もこれを深刻な事態としてとらえ、指導を始めているところですが、なお人権侵害の訴えが後を絶ちません。

一方医療内容については、定床五二四名に対し常勤の精神科医が一名しかいないこと、常勤医にすら臨床に即した向精神薬調整の権限が与えられていないとおもわれること、など考えられないような実態が明らかになっています。

ところで周知のとおり、報徳会宇都宮病院事件では、日本の病院精神医療においては、密室のなかの人権侵害が常態化しているという現実が暴露されました。これが内外の非難をうけ精神衛生法改定作業が進行したことも紛れもない事実であります。

と同時にこの事件では、宇都宮病院の劣悪医療が大学人事により支えられていたことが強い批判を浴びました。このときは各大学の医師が名を連ねたそのお膝下の病院で事件がおこったわけですが、しかし残念ながらその後各大学が真摯に自己批判したとは寡聞にして聞きません。

さてこのような経緯で任意入院の原則、通信・面会権を明記し、患者さんの人権に資するためのものとして精神保健法が登場して既に五年がたちます。が、この間のA病院の対応は、この法の精神を踏みにじるものといわざるを得ません。

過去二度にわたって患者さん死亡事件をおこし、それから一〇年以上経っていまだに改善の意思をもたず、また病院職員が良心的な医療をしようにもそれすら認められない病院。それがA病院であります。

ところで聞き及ぶところでは貴医局では、数名の医局員がA病院の当直勤務に従事しておられるとのことであります。先に述べた事情を考慮すると私どもはどのような展望をもって貴医局員がA病院に勤務なさっておられるのか訝しくおもわざるをえません。と申しますのも、A病院の精神医療のありかたについて適切な現状認識と今後の展望をもつことなしに当直勤務を継続することは、ちょうど宇都宮病院に対する各大学と同様の愚をおかしかねないと考えるからであります。

そこでご多忙とは存じますが、以下の点につき考えをお聞かせ願いたいとおもっております。

① 貴医局に所属する医師がA病院に勤務している事実はあるか

② もしその事実があるならばこの間のA病院の入院患者に対する人権侵害についてどのような認識をもっておられるか。特に本年二月には夜間に入院患者さんへの暴行事件がおこったといわれるが、当直勤務者としてそれをどのように受けとめておられるか

③ 現在のA病院の医療体制のなかで、当直医として責任をもって勤務しうる展望をもっておられるか

なお勝手ながらお返事は直接お会いしてお聞かせ願いたいと考えております。その日時等についてご相談したいので、誠に恐縮ですが六月二五日までに当センターまでご連絡下さい。

別紙(二) 申し入れ書

一九九三年七月一六日

Cセンター

代表 乙山春男

日頃医療の実践、教育、研究にお心砕きのことと存じます。私たちは精神医療における人権の問題について相談活動をおこなっているものです。

さてこの間私どもは医療法人 甲A病院に入院中の患者さんから多数のご相談を受けております。その大部分が院内における暴力の横行や使役、処遇の不当性を訴えるものです。

実際私どもが患者さんの依頼をうけ、書面提示のうえおこなった「患者の代理人となろうとする弁護士」による正当な面会要求についても、A病院はこれを拒否しました。その違法性は先般の国会質問でも明らかにされた通りです。また入院患者さんが病院に依頼した郵便物が相手先に届いていないという訴えも度々耳にします。こうしたこともふまえ私たちはA病院の入院患者さんに深刻な人権侵害状況が生じていると考えています。

大阪府衛生促進部もこれを深刻な事態としてとらえ、指導を始めているところですが、なお人権侵害の訴えが後を絶ちません。

一方医療内容については、定床五二四名に対し常勤の精神科医が一名しかいないこと、常勤医にすら臨床に即した向精神薬調整の権限が与えられていないとの訴えがあること、など考えられないような実態が明らかになっています。

ところで承知のとおり、報徳会宇都宮病院事件では、日本の病院精神医療においては、密室のなかの人権侵害が常態化しているという現実が暴露されました。これが内外の非難をうけ精神衛生法改定作業が進行したことも紛れもない事実であります。

と同時にこの事件では宇都宮病院の劣悪医療が大学人事により支えられていたことが強い批判を浴びました。このときは各大学の医師が名を連ねたそのお膝下の病院で事件がおこったわけですが、しかし残念ながらその後各大学が真摯に自己批判したとは寡聞にして聞きません。

さてこのような経緯で任意入院の原則、通信・面会権を明記し、患者さんの人権に資するためのものとして精神保健法が登場して既に五年がたちます。が、この間のA病院の対応は、この法の精神を踏みにじるものといわざるを得ません。

過去二度にわたって患者さん死亡事件をおこし、それから一〇年以上経っていまだに改善の意思をもたず、また病院職員が良心的な医療をしようにもそれすら認められない病院。それがA病院であります。

ところで聞き及ぶところでは貴大学の医師でA病院の勤務に従事している方がおられるとのことであります。先に述べた事情を考慮すると私どもはその方がどのような展望をもってA病院に勤務なさっておられるのか訝しくおもわざるをえません。と申しますのも、A病院の精神医療のありかたについて適切な現状認識と今後への展望をもつことなしに医師としての業務を継続することは、ちょうど宇都宮病院に対する各大学と同様の愚をおかしかねないと考えるからであります。

そこで以下の点につき考えをお聞かせ願いたいとおもい以下の項目に関する質問状を貴大学医学部耳鼻科、皮膚科各医局長宛で送付しました。

① 貴大学に所属する医師がA病院に勤務している事実はあるか

② もしその事実があるならばこの間のA病院の入院患者に対する人権侵害についてどのような認識をもっておられるか。特に本年二月には入院患者さんへの暴行事件がおこったといわれるが、勤務する医師としてそれをどのように受けとめておられるか

③ 現在のA病院の医療体制のなかで、責任をもって勤務しうる展望をもっておられるか

その結果すでに耳鼻科からはZ医局長名で、A病院に勤務していた事実の確認と今後は勤務をやめるよう指導を徹底している旨の後連絡をうけました。しかしながら同様の文面で質問状をお送りした皮膚科からは、返答期限として指定させていただいた六月二五日を一〇日以上過ぎてなおご返事をいただいておりません。

本状と同時に皮膚科医局長宛でご返事の督促をいたしますが、それとともに貴職におかれましても精神医療における人権問題の深刻さに鑑み、また私どもの真意をお汲みのうえ、適切な配慮、ご協力をいただけるようお願いする次第です。

なお本申し入れ書は貴大学医学部長宛にも同趣旨で送付しております。ご承知おきください。

別紙(三) 質問状

一九九三年九月九日

Cセンター

代表者 乙山春男

日頃精神医療の実践にお心砕きのことと存じます。私たちは、精神医療における人権の問題について相談活動をおこなっているものです。

さてこの間私どもは医療法人甲A病院に入院中の患者さんから多数のご相談を受けております。その大部分が病院内における暴力の横行や使役、処遇の不当性を訴えるものです。

実際私どもが入院患者さんから依頼をうけ、「患者の代理人になろうとする弁護士」が合法的な手続きにもとづいておこなった面会要求に対しても、A病院はこれを拒絶しました。それのみならずこの際にA病院の医師自身が、患者さんにむかって弁護士との面会を拒絶する旨の誓約書を強要した事実が明らかになっています。

こうした重大な精神保健法違反に対し、大阪府衛生部もこれを深刻な事態としてとらえA病院にたいして指導を始めているところですが、なお病院側は面会時間を一〇〜一五分に制限したり、日祝日の面会を禁止するなど逆に居直りともとれる対応で事態をきりぬけようとしています。これらは法の精神に逆行しまた厚生省の「通信面会に関するガイドライン」に対する明らかな違反です。この問題は六月の国会質問でも追及されており、厚生大臣も衆議院厚生委員会で「精神医療全体の問題として調査・対応しなければならない」と述べています。

しかしA病院が抱える問題は、ひとつ通信・面会に限りません。私どもの調査では病院内で患者さんへの暴力が横行しているとかんがえられること、作業療法と称して入院患者さんを安価な労働力として使役していることなど到底医療機関とはおもえない実態が明らかになってきています。

このように考えますとき、A病院の医療実態は、かつて問題になった宇都宮病院のそれに比肩するといわざるをえません。

周知のとおりいわゆる宇都宮病院事件では、日本の病院精神医療では密室のなかの人権侵害が常態化しているという現実が暴露されました。これが内外の非難をうけ精神衛生法の改定作業が進行したのも紛れもない事実であります。と同時にこの事件では宇都宮病院の劣悪な医療体制を支えてきた医師および大学人事にも強い批判が集中しました。このときは各大学の医師が宇都宮病院に名を連ねていたわけですが、残念ながらその後各医師・大学が真摯に自己批判したとは寡聞にしてききません。

さてこのような経緯で任意入院の原則、通信・面会権を明記し、患者さんの人権に資するものとして精神保健法が施行されて既に五年がたちます。しかし繰返し申しますようにこの間のA病院の対応は、この法の精神を踏みにじるものといわざるをえません。とりわけ許すことができないのは、私どもに連絡をとられた何人かの入院患者さんについて、病院側はなお適切な保護が必要であると知りつつ生活保護を打ち切り、突然強制退院させたことです。これは患者さんに対して行路病者になれというに等しく、責任ある医療機関として絶対とってはならない態度であります。

こうしたA病院の人権侵害実態は過日テレビ・ニュースで特集され世論を喚起するところとなっていますが、残念ながら病院側に全く反省がみられないのが実情です。過去二度にわたって患者さんの死亡事件をおこし、それから一〇年以上たっていまだ改善の意思をもたない病院。それがA病院であります。

ところで聞き及ぶところでは貴殿は上記A病院に勤務しておられるとのことでありますが、先に述べた事情を考慮すると私どもは貴殿がどのような展望のもとにA病院に勤務なさっておられるのか訝しくおもわざるをえません。と申しますのもA病院の精神医療のありかたについて適切な現状認識と今後への展望をもつことなしに医師としての業務を継続することは、ちょうど宇都宮病院事件に対する各勤務医師と同様の愚をおかしかねないと考えるからであります。

そこでご多忙中とは存じますが、以下の点についてお考えをお聞かせ願いたいとおもっております。

① 貴殿が医療法人甲A病院に勤務している事実はあるか

② もしその事実があるならば週に何時間またどのような業務に従事しておられるか

③ A病院に勤務する医師としてこの間のA病院の入院患者さんに対する人権侵害についてどのような認識をもっておられるか。特に本年二月には入院患者さんへの暴行事件がおこったといわれるが、勤務する医師としてそれをどのようにうけとめておられるか

④ 現在のA病院の医療体制のなかで、今後も責任をもって勤務しうる展望をもっておられるか

なお勝手ながら直接お会いして返事をお聞かせ願いたいと考えております。その日時についてご相談したいので、誠に恐縮ですが九月三〇日までに当センターまでご連絡ください。

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